久しぶりに会ったその人は、
病室のベッドに一人、横たわっていた。
「忙しいのに、来てくれてありがとう」
30kgも痩せた体。
声は枯れ、
少し上ずっていた。
病気になった人に会う。
会いに行ったところで、
その人の痛みを代わってあげることはできない。
だから、
他愛もない話をした。
昔のこと。
最近のこと。
ふと、
以前何度か一緒に行った焼き鳥屋の話になった。
「ご主人が病気になって、
店を畳むことにしたらしいよ」
また会いたいと思っていた人。
また行きたいと思っていた店。
でも、
その「また」が、
二度とやってこないこともある。
祖母の最期を見届けられなかったことを、
俺は数年悔やんでいた。
でも本当は、
最期の話じゃなかったのかもしれない。
元気だった頃に、
もっと会えたんじゃないか。
そんなことを、
今さら思う。
「あの焼きおにぎり、絶品だったね」
天井を見つめていたその人の顔に、
ほんの少し笑みが浮かんだ。
懐かしかった。
でも、
懐かしさだけで終わらせたくない自分もいた。
何か未来の話をしたかった。
元気になったら。
退院したら。
また今度。
そんな言葉を、
ひとつくらい残したかった。
でも結局、
何も言えなかった。
「仕事で忙しいんだから、もう大丈夫だよ」
わずか10分の面会だった。
病院を出ると、
雨が降っていた。
傘を差すほどでもない通り雨に打たれながら、
一人、病院を後にした。