ライブレポ⑤

2026.08.14
ライブレポ⑤

"Take care of each other."


Bluey from INCOGNITO presents "CITRUS SUN"
2026.07.23

各地で真夏日となったこの日、東京都心も35℃に迫る厳しい暑さだった。首に巻いたアイスリングがちょうど役目を終えようかという頃合いで、今夜の目的地・ブルーノート東京を擁する南青山の地に降り立つ。

初めてのブルーノート。前週に「FFF」でKassa Overallの演奏に触れたせいで「ジャズこそミュージック」期に突入しており、まさにうってつけのタイミングだった。その幸運な巡り合わせにまずは感謝したい。

ちなみに、IncognitoとCitrus Sun、それらを率いるBlueyに関する知識はまったくなかった。Incognitoは1979年に結成された大編成バンドで、Citrus SunはBlueyの嗜好がより色濃く反映されるプロジェクトらしい。

当然、ブルーイがギタリストであることも知らなかった。数年前にパーキンソン病と診断され、今は弾くことができなくなっていることも。ステージを降りる間際に彼がそう告げるまで、何も知らないでいた。

〜〜

セットリストは現時点で未発表であるため、当日の記憶と音源を照合しながらの振り返りとなる。これが難航するかと思いきや、副次的にシトラス・サンのコンセプトを理解する一助にもなり、なかなか楽しい。

大まかな構成はオリジナルとカバーが半々くらい。カバーについてはブルーイが若い頃に惹かれ、今もなお敬愛する70-80年代のジャズ・ファンク、ソウル、フュージョンを次世代に残そうといった意図を感じた。

カバー曲のうち、例えば "Send Me Your Feelings"(トランペット奏者・日野皓正が1979年にリリース)は、ブルーイがロンドンでレコード店を営んでいた時に出会ったという。来日時によく披露しているらしい。

また "Ride Like the Wind"(Christopher Crossが1979年にリリース)は、ブルーイが直前のMCで「聴けば分かる」と宣言した通りに「あーこれね!」となったアップテンポなAOR。Imaaniの力強いボーカルが光る。

そして "What Color Is Love"(Terry Callierが1972年にリリース)。美しさと憂いが漂うソウル・バラード。原曲が収録されているアルバムごと聴き、今やすっかりお気に入りに。テリー・キャリアー、声が良い。

ブルーイがシトラス・サンでやりたいこと、ギターが弾けなくとも続けていることは、きっとこういうことだ。まるで棚からレコードを選ぶかのような手触りで自分の愛する曲を紹介し、その良さを伝えていく。

シトラス・サンのオリジナル曲からは "Mister Mellow" "Honey" "The Boy Beneath the Sea"(もっとあったかも)が演奏された。"The Boy 〜" は思わず体が揺れてしまうファンキーなインストで、好みだった。

いや "Expansions" もやったか(聴いていて気づいた)。イントロは静かなピアノソロ。続いてトライアングル、シェイカー、ベースリフが小気味よく重なっていく。イマーニのハイトーンの伸びも気持ちがいい。

また、何度かあったRega DaunaのハーモニカとKevin Robinsonのトランペットのトレードがたまらなかった。4小節か8小節ずつソロを交換し合う、これぞジャズセッションと言いたくなるような応酬だった。

応酬でいうと、終盤のドラム&パーカッション・デュオは圧巻だった。それ以外の奏者は一度ステージから降り、打楽器のみの即興が始まる。叩く――原初の音楽的コミュニケーションに本能を揺さぶられた。

もうこのあたりで「音楽サイコーー!」とただただライブを楽しむ生き物と化してしまっていたが、やはりブルーイの最後のMCには触れねばならない。ライブ中は楽しそうだった彼が、突如として涙したからだ。

(以下、覚えている限りの内容となる)

「人々の分断が煽られ、各地で恐ろしいことが起こっている。この世界はどうかしている。それでもわたしたちには力がある。問題は大きいが生き抜くすべはある。自分の生活圏で困っている人に手を差し伸べよう。

お互いを大切にしよう。世界が抱える問題は、わたしたちの世代には解決できないかもしれない。でも、今を生きる子どもたちの世代にはどうにかなるかもしれない。だから、子どもを大切にしよう。彼らは希望だ。

そして、良い音楽をたくさん聴かせよう。子どもたちがいずれ、社会を変える。わたしは好きに生きてきたし、変なものを食べてきたから病を患ってしまったが……。子どもたちには良いものを食べさせなければね。

もう一度言う。
お互いを大切に。お互いを大切にするんだ……」

~~

四日間の公演のうち、土曜には "JAZZ for CHILDREN" と銘打たれた企画が催された。未成年はチャージが半額となり、フロア前方には子どもが踊れるスペースが設けられた。メンバーと記念撮影もできたらしい。

何度も繰り返された "Take care of each other." 皆が皆そうであればと願うと同時に、自分もそうでなければと思う。善いものが善い行いを喚起する――ブルーイとバンドが音楽に信じている力はそれではないか。

ブルーイから「これを聴いてみてくれ」と無邪気に差し出された素敵な曲をいくつも受け取った。こうして音楽は人から人へ渡っていく。上から下へ、横から横へ。ときに下から上へ。僕たちはその潮流の中だ。

お互いを大切にする方法はどれだけあるだろう。終演後、頭を占めていたのは心地よい余韻とそれだった。相手を気遣う?自分が役に立つ?……きっと何かを渡していくことになる。僕は何を渡せるだろうか。

~~

次はテオ(Vulfpeck)のブルーノート公演に行きたい!

FIRST CLASS 皆川 律