エレベーターの沈黙

エレベーターの沈黙

エレベーターって、不思議な空間やなと思います。

知らない人と、ほんの数十秒だけ同じ場所にいる。

会話をするわけでもなく、お互いスマホを見たり、階数表示を眺めたり。
あの時間には、独特の静けさがあります。

誰かが先に乗っていたら、「失礼します」と小さく会釈をして乗る。

降りるときには、「ありがとうございます」と言う人もいれば、何も言わずに降りる人もいます。

正解はたぶん、どちらでもありません。

でも僕は、なるべく「ありがとうございます」と言うようにしています。

扉を開けて待っていてくれたから、という理由もありますが、それ以上に、その数十秒だけ同じ空間にいた人への区切りの言葉みたいな気がするんです。

もちろん、返事が返ってくることなんてほとんどありません。
それでも別にいいんです。

言葉って、相手に何かを求めて発するものばかりじゃないと思うので。

エレベーターを降りる頃には、その人とはもう二度と会わないかもしれません。

だからこそ、その一瞬だけでも気持ちよく終われたら、それで十分です。

たった数十秒の出来事なのに、その人の人柄って案外そんなところに出るのかもしれません。

僕も、そういう何気ない場面で、ちゃんとした人でいられたらいいなと思っています。

FIRST CLASS
伊丹夕季(いたみゆうき)