棒倒しという名の闘い

棒倒しという名の闘い

毎年この時期になると、各地で学祭が行われる。
母校である防衛大学校でも、
この季節に合わせて「開校祭(かいこうさい)」が開かれる。

“学祭”と聞くと、模擬店やライブなどの賑やかな光景を思い浮かべる人も多いだろう。
けれど、防衛大学校の開校祭は少し違う。

学生は基本的に制服を着用していて、
全体の雰囲気は整然としており、どこか凛とした空気が漂っている。

会場では模擬店はもちろん、訓練展示や装備展示、祝賀飛行、
吹奏楽部・儀仗隊・学生隊によるパレードなど、
防大ならではの催しが行われる。

中でも最も盛り上がるのが――「棒倒し」だ。

普段は制服姿の学生たちが、
この日ばかりは作業着とヘッドギアに身を包み、
まるで戦場に向かうような真剣な表情を見せる。

棒倒しは、防衛大学校の伝統競技。
1チーム約150名で構成され、攻撃側と防御側に分かれて戦う。
攻守それぞれに細かなポジションがあり、
ちなみに当時の松風は“特攻”――棒を倒しにいく役割を担当していた。

中央に立つ高さ約3.5メートルの棒を、
攻めは倒そうとし、守りは立て続けようとする。
棒が地面に対して30度以上傾いた時点で勝敗が決まる。
制限時間は、わずか2分。
たった2分。

けれど、その2分のために学生たちは何ヶ月も前から準備を重ね、
戦術を練り、体を鍛え、仲間との連携を磨いていく。

側から見れば、泥だらけでぶつかり合う“男くさい戦い”に見えるかもしれない。
けれど、勝っても負けても、
そこに至るまでの過程で築かれるのは、
同期や仲間との間に生まれる“信頼”と“絆”だ。

汗と土にまみれながら、一緒に笑い、励まし合い、
時にはぶつかり合いながら培われた関係は、
卒業後も不思議と途切れずに続いていく。

棒倒しを観るたびに思う。
あの2分間には、努力も誇りも、そして青春も全部詰まっている。
日常の中で忘れかけていた「真剣さ」みたいなものを、
毎年、少しだけ思い出させてくれる。

…めっちゃ痛いからもうやりたくないけど。

FIRST CLASS
松風 慎二