『恵』

『恵』

朝からの雨。

そういう日にあえて近くの神社へ立ち寄ってみる。
境内には人の気配がない。
石畳の上に落ちる雨音だけが、
静かに広がる。

濡れた空気。
しっとりとした木の匂い。
いつもと同じ場所なのに、
世界の輪郭が、少し柔らかくなる。

雨は、
あまり歓迎されない。

傘を持つのは面倒だし、
靴も服も濡れる。
予定も少し狂う。
わざわざ雨を喜ぶ人は、
きっと多くない。

それでも、
境内に立っていると、
この雨が何かを静かに洗い流しているような
気がしてくる。

溜まっていた埃のようなもの。
言葉にならない疲れ。
どこかに残っていた余計な力み。

雨は、
ただ降り続けるだけだ。

でもその静けさの中で、
少しずつ世界を整えている。

ありがたいと思う前に、
つい面倒だと感じてしまうものの中に、
実は必要なものが紛れている。

恵みの雨。
実はそこに意識を向けるだけで、
気づけば自分の中も
少し整い始めている。