忘れてしまいたいものほど、
なぜか残り続ける。
消し去りたかった記憶が、
ふとした瞬間に
鮮明なまま浮かび上がる。
逆に、
忘れてはいけなかったはずのものが、
静かに遠ざかっていくこともある。
何を好きだったのか。
何に心地よさを感じていたのか。
何にあんなに心が躍っていたのか。
思い出せそうで、
うまく手繰り寄せられない。
大人になると、
「好き」という感覚の上に
いくつもの基準が重なっていく。
意味があるか。
価値があるか。
それは今の自分にとって
得になるのか。
気づけば、
単純だったはずの感情は、
どこかに押しやられていく。
「それはもう違う」
「それは昔の話だ」
そんな言葉で、
静かに片付けてきたもの。
でも、
行き詰まったとき、
人はふと立ち止まるものだ。
今いる場所じゃないどこかに、
自分をほどく何かがある気がしてしまう。
忘却の彼方に置いてきた、
まだ名前もつけていなかった頃の感覚。
それはきっと、
失われたものじゃない。
ただ、
遠くにしまい込んでしまっただけ。
奥へ手を伸ばせば、
きっと届く。
そこに、
本当の自分が残っている気がする。