『水辺』

『水辺』

波が、
部屋のすぐ下まで押し寄せている。
白い泡が寄せてはほどけ、
微かな塩の匂いが肺の奥を満たしていく。

ここには街の気配も、
山の静けさもない。
あるのはただ、
水が世界を支配している感覚。

淡い光が揺れる水面を映し、
壁も天井も、
呼吸するように波打っている。

人の声はない。
慰めも、約束も、説明もいらない。
ただ、水と共に在るだけで、
心の輪郭がぼやけていく。

名前を持たない場所。
時間を必要としない部屋。

胸の奥のどこかが、
この景色を知っている。

いつか、
本当にここへ住むのかもしれない。