天気予報では曇りのち雨と言っていた。
「こういう日に限って雨なんだよな」とため息を吐きながら、布団からもぞもぞと出る。
なぜかって、洗濯物が溜まってきているからだ。
プロテインを振りながら、ドライヤーを当てるのに苦戦しながら、準備を整えて出社。
家を出てすぐに桜並木がある、この季節はただの並木なのだが、冷たい空気と相まって、口いっぱいに吸い込むとちょっと緑の味がして気持ちよくなれるから、毎日そうしてる。
こういう空気を表現するのに、いい言葉ないかなと調べる。「冬青(とうせい)の気配」っていうらしい。それをすかさずあんちょこ。
今日も残業だ。帰宅してこの日記を綴る。
そんなことをしていると、部屋の隅に干しそびれたシャツの山が見えた。
洗濯機の中には、昨日も回し損ねたバスタオル。蓋を開けると、柔軟剤の香りが少しだけ哀愁を帯びて漂う。人間も放っておくとこうやって少しずつくすんでいくのかもしれない。
夜ご飯は冷蔵庫にあった豆腐と鶏肉をなんとなく食べた。豆腐は、味がないことを肯定してくれる食べ物だと思う。無理に味をつけると、むしろバランスが崩れる。人間関係も飾らないのが大切なのかもしれない。
夜になって雨が降り出したのをみて「あぁ、やっぱり洗濯しなくてよかった」と安心したが、それはただの自己防衛だと分かっている。やらなかったことを、正しかったことに変換するのが人間の特技だ。
深夜、ベランダに出ると雨音が一定のリズムで続いていた。洗濯できなかった不甲斐ない僕の心を空が勝手に洗い流してくれている気がして、少しだけ救われた。
次の晴れ間にはちゃんと洗濯しよう。いろんなものを。
FIRST CLASS
夏川 智希