勿忘夜

勿忘夜

人は忘れる生き物だということ。

心が弾む瞬間も、時が経てば新鮮さを失い、気付けば当たり前になっている。

どれだけ大切にしても、時間の中で少しずつ色褪せていく。

でも、それでいいんだと最近は思うようになりました。

思い出に縋るよりその瞬間に本気でいたかどうかのほうがずっと重い。

あの時の空気、呼吸の速さ、言葉にならなかった間。

もう二度と同じ瞬間は訪れないけれど、それだけで十分だと思えるようになったんです。

誰かの記憶に残らなくても、その人の人生の一部になれたらいい。

ほんの一瞬でも、心を動かせたなら、それはもう奇跡だなって思います。

僕が望むのは、永遠じゃなくて心の奥に残るその人の人生の一部。

それがあれば、たとえ忘れられていても、僕さえ覚えていれば明日も生きていける。

FIRST CLASS
夏川智希