タイ、やはり激アツです。
気候の話ではありません。音楽です。僕がアジアン・インディー、とりわけタイの音楽シーンに前のめりになったのはコロナ禍の2020年からだったと記憶していますが、レポに入る前にその当時を少し振り返ってみます。
〜〜
あの頃、Youtubeをはじめとする動画プラットフォームを通じた音楽需要が高まりました。作り手はライブができない状況下でデジタルの露出を増やしましたし、私たちは家にいる時間が増えましたよね。
そうなると、その時間分のキャパシティを未知の音楽の発掘に回す人も出てくるわけです。僕がそうでした。アルゴリズムの働きもあって、掘れば掘るほど多様な音楽とタイムリーにつながることができた。
昨夜、最高のライブを見せてくれたYONLAPAと出会ったのは、そんな日々にすっかり浸かっていた頃のことです。世間は自粛ムードにやや疲れ気味な時期でしたが、インドアな僕はそこまで食らっていませんでした。
ただ、先行きの不安を感じていたのも確かで、漠然と癒しを求めていたように思います。そこに飛び込んできたのが彼らを知るきっかけになった"Sweetest Cure"でした。そりゃもう、綺麗にブッ刺さりました。
雲の上でまどろんでいるようなドリーミーなサウンドに、柔らかな声が溶けている。ずっとスローなのかと思えばアウトロで七拍子に切り替わり、夢から醒めることを告げられる。才気を感じるには十分すぎました。
そこからは現地のレーベルを調べるようになったり、desktop errorが2013年時点で来日していたことに驚いたり、Common People Like YouにThe Strokesの再来を感じたり、Folk9の円熟味に酔ったりしていました。
そのうちに、この国の音楽は今、想像以上に太く、熱のあるストリームの中にあるのだと実感していきました。こういう体験ってすごく楽しいんですよね。世界は自分の知らない脈動で満ちていることが分かるので。
だから、その扉を開いてくれたYONLAPAにはとても感謝しています。今回、彼らを生で見れたことが本当に嬉しかった。とにかく楽しそうに演奏していて、こちらも微笑みを超過してしまうくらい口角が上がっていました。
では、レポです。
〜〜
整理番号は71番。早めに申し込んでいて良かった。そして前座がMONO NO AWAREであることを直前に知った。アワレも見れちゃうんだ。このあとタイペイまで帯同するらしい。なんてお得なツアーなんだろう。
MONO NO AWAREといえば、二月にOasisのリアム・ギャラガーが突如「MONO NO AWARE」とポストしたり(真意は不明)、八月のフジロックではマイクにトンボが止まったりしていた。いろいろ持っている。
ボーカルの玉置さんが、YONLAPAからもらったという謎のフルーツを片手に現れた。それをアンプの上に置き、颯爽と"井戸育ち"のリフが始まった。ああオルタナだ、と思う。気持ちいいなあ。学生に戻っちゃいそう。
前方に数人いる玉置ガールズはビールのカップを掲げてノリノリだ。テンポよく終盤を迎え、去年のキラーチューン"風の向きが変わって"と最新EPの"走馬灯"で締めた。満足感ってこんなにコンパクトに得ていいの?
素晴らしいオープニングアクトだった。かなり温まったと思う。YONLAPAを待つあいだ、せっかくなので僕も「MONO NO AWARE」とポストした。リアム、こういうことだったのかな。そうだったってことにするね。
さあYONLAPAだ。最初にサウンドチェックにやってきたのは、戸愚呂弟みたいなサングラスをかけたフェウチー(ドラム)。いったん袖に引っ込んで、すぐ戻ってきたかと思えばサングラスが頭に移動していた。笑った。
次に、緑のフーディーにNeedlesのトラックパンツを合わせたノイナ(ギターボーカル)がはにかみながら出てきた。ずっと照れ笑いを浮かべている。ここにいるすべての人間はこの子をあらゆる災禍から守る義務がある。
続いて、周囲に絶え間なく幸せを振りまいているはずのガン(ギター)、そしてクラスに500人はファンがいたであろうポーカーフェイス・ナウィン(ベース)が揃い、YONLAPAは完全となった。いよいよだ!初めまして!
ノイナがにこにこしながら歌い始める。マイクが二本(!)立っている。片方は普通のもので、もう片方は受話器の形だ。この受話器マイクを通すと、カセットテープを聴いているような距離感のエフェクトがかかる。
そうして受話器越しに一曲目の"Sweetest Cure"が繰り出された。今この瞬間がcureでしかないから、終演後は苦しくなるかもしれない。最悪、死に至る。間髪入れずに"Is That True?"が続く。trueに決まっている。
どこか恥ずかしそうなMCが挟まり、会場の騎士ゲージが高まったところで「この曲、大好きなの」と言って新譜から"Velvet Love"を奏でる。自分で作った曲を大好きって表明してから弾くの、全方位が幸せになるな……
さらに新譜から"Little Faster"と"Misguided Ghost"が続く。"Little〜"ではノイナの声が透明感の極致に達している。ハモりがあまりにも心地よい。"Misguided〜"はボサノバっぽくなるところがめちゃめちゃクール。
再びぎこちなくも愛おしいMC。しきりに感謝を言葉にしているが、山々の感謝を述べたいのは私たちのほうだと知るべきなどと思っていると、満を持して"I'm Just Like That"が始まった。なんて良いバンドなんだ。
23年のアルバム『Lingering Gloaming』のカップリング曲からは、"I'm〜"以外にも"Sail Away, Away"や"One Way Ticket"をやってくれた。完全には覚えていないけれど、だいたい出してくれた気がする。コンピ盤の曲とかも。
ギターの二人(ガンとノイナ)が互いに笑顔を向けながらアクトする一方、リズムの二人(ナウィンとフェウチー)は演奏に徹していて、その対比もよかった。まあ見逃さなかったけどね、一瞬だけナウィンが笑ったの。
瞬く間に終わりが迫った。一度掃けてからアンコールに応えて出てくるまでの速さは今年一だった。愛らしい。おそらくカバー曲をやって、最後は"Hers"で締め括った。大満足・大幸福の90分でした。また絶対会おうね。

左からガン、ノイナ、ナウィン、フェウチー。みんな可愛い
〜〜
YONLAPA含め、タイのお気に入りのアーティストたちでSpotifyにプレイリストを作ったので、興味を持たれた方は聴いてみてください。(追記)本免受かりました〜。報告も兼ねて23日の夜に少しだけキャスするかもです。
FIRST CLASS 皆川 律