
今日は、防大1年生のときの忘れられない“ヘルウィーク”の話を。
きっかけは、ある同期が休日の外出から規定の時間に帰って来られなかったこと。
防大の内部用語でそれは「事故」と呼ばれ、服務規律違反にあたる。
そうなると中隊の1年生全員に連帯責任が課され、翌週の月曜日から地獄の1週間が始まる。
ヘルウィーク──その名のとおり、地獄の1週間。
ロッカーをきっちり整理整頓していても、ベッドメイクを完璧にしていても、全部ひっくり返される。
畳んだ服も布団も容赦なく飛ばされ、バサッという音とともに床に散らばる。
さらに部屋に戻ると、ベッドの骨組みまでもが外されている。
壁に立てかけられたフレームが、複数並んで細い道になっていた。
そこを這うようにして進ませられるのも“お約束”。
自分のベッドだったはずのものが、もはや訓練の道具に変わっていた。
そうなると、いつもより時間が取られるから全てが後手に回る。
できていないことが増えて、上級生からの呼び出しも増える。
さらに時間がなくなり、またできないことが増える──完全に負のスパイラルだった。
夜になっても緊張が解けず、寝不足のまま翌朝を迎える。
走って、腕立て、また走って。
唯一の楽しみの食事も一瞬でかき込み、飲み込んだらすぐに次のタスクへ。
「これ、本当に1週間もつのか?」と絶望的な気持ちになる。
でも、不思議なことに、隣で同じように怒鳴られ、同じように布団を直し、同じように倒れ込みながら立ち上がる同期を見ていると、なんとか踏ん張れた。
一人だったら絶対に折れてたけど、仲間がいたからこそ、耐えられた。
すごい教訓なんて残ってないけど、「なんとかなるか」って思えるのは、あの頃のおかげかもしれない。
ひっくり返される毎日も、案外悪くなかったのかもしれない。
…布団は飛ばされたくないけど。
FIRST CLASS
松風 慎二