起床ラッパと対番

起床ラッパと対番

今日は僕の大学時代の話を少し。

防衛大学校って聞いたことありますか?
そこは将来の幹部自衛官になる人材を育てるための、ちょっと特殊な大学です。
一般の大学のように自由なキャンパスライフがあるわけではなく、寮生活と規律の中で心身を鍛え上げる毎日。
僕は学費がかからないという理由もあって進学しましたが、正直、想像をはるかに超える世界でした。

毎年およそ500人が入校しますが、最初の5日間で「合わない」と感じて辞めてしまう人が50人ほど出ます。
1年を終える頃には400人くらいに減ってしまう。
それだけ合う・合わないがはっきり分かれる環境です。

入校して最初の5日間は「お客様期間」と呼ばれていて、この間は特に怒られることはありません。
ただ、一つ上の先輩方が容赦なくしばかれている様子を目の当たりにして、「これは自分には無理だ」と感じて辞める人も少なくありません。

そして迎えた6日目。
お客様期間の終了と同時に、まだ薄暗いうちに鳴り響く起床ラッパ。
布団を畳み、着替えを済ませ、点呼の列に駆け込み、全員で腕立て伏せ。
その一連の流れが、いよいよ始まった防大の日常でした。

正直、「やっぱり来るんじゃなかったかも」と心の中でつぶやいたのを覚えています。

寮生活には細かい規則が山のようにありましたが、1年生の僕には何一つ分からない。失敗しては叱られる毎日。

そんな中で支えてくれたのが「対番」と呼ばれる一つ上の先輩、Hさんでした。
どんなに厳しい状況でも、Hさんだけは僕の味方でいてくれて、できないことは一から丁寧に叩き込んでくれた。
あの安心感がなければ、きっと途中で折れていたと思います。

今振り返ると、理不尽さも起床ラッパの音も、そしてHさんの言葉も、全部が今の自分を支えてくれる記憶です。
今もふとした瞬間にHさんの言葉を思い出します。
たぶん一生、僕の中で鳴り続ける“もうひとつのラッパ”なのかもしれません。

FIRST CLASS
松風 慎二